Ⅵ.  社会制度研究部門

②グローバル化と社会制度の研究

〈文理融合型Global Welfare〉の実現をめざす国際的研究・事業拠点の形成
構成メンバー
(★はプロジェクトリーダー)

★小川 啓一(国際協力研究科・教授)
櫻井 徹(国際文化学研究科・教授,研究科長)
廳 茂(国際文化学研究科・教授)
梅屋 潔(国際文化学研究科・教授)
齋藤 剛(国際文化学研究科・准教授)
辛島 理人(国際文化学研究科・准教授)
吉井 昌彦(経済学研究科・教授,副学長)
森 康子(医学研究科・教授)
勝二 郁夫(医学研究科・教授)
中澤 港(保健学研究科・教授)
ノエミ・ランナ(ナポリ東洋大学アジア・アフリカ・地中海学部・准教授)

研究の目的と概要

社会システムイノベーションセンター(以下「センター」。)のミッションは,先端的な実証研究によって社会問題の分析・解決を目指しつつ,その一般化・理論化を図る手法(application-based theory generation)を採用し,社会に貢献しつつ学問的にも世界最高水準の社会システムイノベーションの総合的研究拠点を形成する,とある。本国際文化学研究科(以下「本研究科」。)がめざすものも,以下に記するとおりその理念を多く共有しており,センターのプロジェクトとして参画し得れば,(1)Web of Science収録の論文数,(2)国際共著論文数,(3)社会システムイノベーションの政策提言数・社会実装数,(4)社会システムイノベーションに係る文理融合・分野横断的研究の成果報告のためのシンポジウム等開催件数,の増加に大いに貢献できると考えている。
 さて本プロジェクトでは,文理の専門性の壁を越えた国際的研究・事業ネットワークのもと,よりよいWelfareが地球規模で具体的に実現されるモデルが見いだされ,広義のWelfareに関わる諸要素,すなわち保健・医療・福祉・経済・教育・信仰等の各地域における重要性が地球規模で把握され,個々の事業がその理念のもとで有効に機能している状態を,〈文理融合型 Global Welfare〉の実現と呼ぶ。そのための学理と実践双方の調和に関わる国際的研究体制を南半球の諸機関をも含めて構築し,開発援助事業一般及び個々の協力事業に関わるワールドワイドな研究・事業拠点を形成することが,この取組の目的である。
 まずは,現場ではすでに複合領域的に対処が行われている国際開発援助関連の事業を対象に,上述した保健・医療・福祉・経済・教育・信仰に係る研究を深化させる一方,文理双方の専門家がそれぞれの強みを活かして強固な連携体制を構築する。さらには,国際的支援の専門諸機関(本邦ではJICA,欧米ではUSAID,AFD,DANIDA,SIDAなど)の活動実態および地球規模での国家戦略を解明するとともに,特定の地域における介入者・被介入者双方の関係や,また,双方の戦略とそれにもとづく実践を動態的に把握していく。この研究・事業拠点は,このように集積された専門的知見を活かし,南半球への介入の活動事業への予備的な情報提供,個々の事業のホスト側の環境整備,そして,事業を受け手側により適合させるための助言,事業の事後評価など,コンサルティング機能を果たすことを目的とする。
 この研究・事業拠点は,本研究科が遂行してきた日欧亜における「移住」を主たる対象とする研究拠点形成事業の成果を敷衍して,ヨーロッパ各国やEUによるODAおよびNGOの方針・世界戦略についての分析を基礎として構想されたものである。近時の「移民」の爆発的増加は,「移民」の送り手である南半球の地域が,広義のWelfareに関わる要素を著しく欠いているか,それらの要素に関連する深刻な地域的問題を抱えていることに起因すると指摘されている。その意味で,大規模な「移民」の故地は必ず何らかの開発援助・国際協力の対象地域であった。神戸大学では,すでに国際開発援助・国際協力に関しては,国際協力研究科がプロパーな研究を推進しているほか,医学研究科,保健学研究科が医療・保健を中心に,専門的な知見を活かした南半球の個別地域への介入事業を行っている。この取組は,これまで本学で個別に行われてきたGlobal Welfare実現のための諸事業を,研究レベルで有機的に連携させることを通じて,国際的な支援の実践的な有効性を最大化することをめざす。さらにその先には,地域の理解に根ざした地球規模の大局的見地と,文理融合の多角的な研究・分析にもとづいたバランスのとれた実践的知見を積み上げることを通じて,より有効な国際開発援助を実現するための評価・コンサルティング機能を果たしていく。