社会制度研究部門 物理学実践の解明を通じたイノベーション・マネジメントの探求

構成メンバー

★はプロジェクトリーダー

★松嶋 登(経営学研究科・教授)
 塚原 東吾(国際文化研究科・教授)
 石川 哲也(国立研究開発法人理化学研究所 放射光科学研究センター・センター長)
 高田 昌樹(東北大学多元物質科学研究科・教授)

研究の目的と概要

本研究の目的は,放射光科学に携わる物理学者との文理融合型研究を通じて,主に自然科学系のサイエンスのマネジメントを含んだイノベーション(サイエンス・イノベーション)を探求することにある.本研究の新規性は,既存の経営学においてイノベーション・マネジメントを文理融合型研究として推進する先行研究が存在しなかったことからも明らかである.より重要なのは,なぜこのようなアプローチが必要となるかである.本研究が物理学者との分離融合型研究を必要とする理由は大きく二つある.
 第一に,サイエンスを含んだイノベーション・マネジメントを考えていくことに対する実践的課題がある.過去の経営学におけるイノベーション・マネジメントを概観すると,サイエンスそのものは与件として,その応用としてイノベーションを捉えてきた.例えば,基礎研究と言っても,サイエンスの内容に踏み込んで論じられてきたものではなく,サイエンスの成果を応用していく初期段階としての位置付けが与えられ,そこから産業化までに控える「死の谷」をいかに克服するかが課題として設定されてきた.しかし,今日の高度化した企業が挑むイノベーションは,サイエンスの研究成果が直結するものも多く,企業も基礎的なサイエンスに携わる研究者を大勢抱え,サイエンスそのもののマネジメントが必要になっている.この時,サイエンスもその実は様々な研究関心を持った人間集団である研究者が行う物質的・社会的実践に他ならないわけであり,彼らの社会物質実践に大きく影響を与えているのが,我が国では兵庫県播磨に設置されている大型放射光施設SPring-8であり,世界的にも今日のサイエンスのインフラとなっている放射光科学に他ならないのである.
 第二に,社会科学全体のメタ理論として,近年,物質的転回に注目が集まっている.既に申請者は,情報経営研究を中心に議論されてきた社会物質性概念に関する論考を数多く発表してきた.現在は,経営学全般で議論されている物質性概念について,その理論的含意を明らかにしたモノグラフを社会システムイノベーションセンターから発刊する準備を進めている.しかし,この物質性概念の出自を辿れば,もともとは科学論として量子物理学者が自らの実践を内省しながら論じてきた実在論に根ざしたものである.本研究をさらに一歩深めるためには,実在論における物質的転回を援用するのみならず,物理学者自身のマネジメント実践に踏み込んだ分析を行うことができると考えられる.

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