社会制度研究部門 日本の人事労務管理におけるTheory-Practice Gap:計量的文献レビューによる検討

構成メンバー

★はプロジェクトリーダー

★江夏 幾多郎(経済経営研究所・准教授)
 上林 憲雄(経営学研究科・教授)
 庭本 佳子(経営学研究科・准教授)

研究の目的と概要

本研究では,人事労務管理をめぐる言説や基本的仮定・思想が,実務界と研究界でどの程度一致または乖離しているのか,そこにどういう歴史的変遷があるのかについて,日本で発行された諸々の資料に基づき計量的に解明することを目指す。この解明を通じて,日本の人事労務管理の実務と研究がどのような進化・変化を行うべきなのかについて,提言することを目指す。

これまで,応募者が研究代表者を務める科研テーマの下,日本の人事労務管理研究のデータベース作成と解析(計量的テキスト分析)を,日本労務学会の成果物に着目して行ってきた。データベースの作成は,日本労務学会の全国大会論集(1971~)および機関誌(1999~)に掲載されている「全ての」論文,シンポジウム要旨の,「タイトル」「著者」「キーワード」「要旨」「引用文献」を表計算ソフトに転記する,という過程によってなされた。論文本文の転機は,著作権上の理由により難しいものの,引用文献情報の利用が,従来のシステマティック・レビューにはない特徴である。どのような文献を引用しているかによって,それぞれの研究の特徴のみならず,学会の議論の潮流を把握することができるのである。

これまでの分析における主要な発見事実として,以下が挙げられる。
1)所収論文の中では社会学的な研究のシェアが低下し,心理学系の研究のシェアが徐々に上昇しており,人事労務管理研究が集団や規則の研究から,個人や行動の研究に遷移していることが窺われた。
2)データベースにおける用語間の共起関係の分析によると,労使関係に関する関心の退潮,継続して高いキャリアへの関心の中でも着眼点が企業のマネジメントから個人の自己形成へと移っていることが窺われた。
3)被引用文献のランキングに関する分析によると,幅広い研究で引用されるような文献はなく,研究領域内での細分化と対話不全状態が存在する可能性が見出された。

上記テーマに関する科研費申請時点では,計量的レビューの対象は学術雑誌のみであった。しかし,学術雑誌のデータベースの整理・解析を行うにつれ,学術的言説のレリバンス(有意義性)を評価する観点が必要であると洞察するに至った。評価する観点については数多くあるが,経営学も含めた社会科学全体におけるTheory-Practice Gap(理論と実践の乖離)への関心を踏まえ,人事労務管理研究においてこの乖離がどの程度見られるのかを検討することとした。

この作業のためには,人事労務管理の実務におけるトレンドを,実務に近い雑誌などのデータベース化を通じて明らかにしないといけない。この作業においては,学術誌のデータベース化と同様,文字入力等に関する人件費が数十万円単位で発生する。しかしながら,この費用については科研費申請内容には含まれていない。当初の研究構想には含まれていなかったためである。端緒についた研究をより有意義なものとするため,社会システムイノベーションセンターの研究プロジェクトの一翼を担う希望を表明させていただく次第である。

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