IT化とビッグデータの蓄積・利用をめぐる社会システム研究部門 COVID-19後の市場獲得に貢献するBig data analytics capabilityおよび組織的要件に関する影響*

構成メンバー

★はプロジェクトリーダー

★森村 文一(経営学研究科・准教授)
 三古 展弘(社会システムイノベーションセンター・教授)
 坂川 裕司(北海道大学経済学研究院・教授)

研究の目的と概要

 2020年3月以降,COVID-19により,消費者の行動が大きく制限されるとともに,消費者の価値観や購買意思決定ルールなどが変化したと考えられる。それにより多くの企業がそれまで事業を展開していた市場が消失するか,競争構造が大きく変化したと考えられている。そのため,制限緩和後は市場獲得(既存市場の再拡大や市場創造)のために,企業は迅速にそのような消費者のニーズや,彼らをめぐる競争行動を理解しなければならない。本研究ではBig dataとそれを分析し活用する組織能力に注目し,その分析能力が市場獲得を促進するために必要となるであろう,組織の志向性とビジネスプロセス統合との関係を明らかにすることが目的である。
 組織の情報技術(以下,IT)利用に関する先行研究群では,成熟市場において競争優位を獲得するために,データ収集や分析のためのITインフラの整備・ビジネス目的をサポートするIT利用・イノベーションを探索するためのIT利用に関する能力であるIT capabilityを高めることが重要であるという強固な結論を得ている。IT capabilityが高まると,様々な事業間での情報共有やオペレーション効率性や“何かを発見しようとする体制”が高まり,経営環境が複雑で不安定になるにつれて,競合他社と比べ事業の柔軟性と機敏性を高め経営成果を高めることが分かっている。
 どのようなデータをどれぐらい入手・蓄積・分析可能かに関するITの進化と共に,長期的な消費者個別のさまざまな行動データ(以下,Big data)と,組織的にその分析やそこからインサイトを得る能力(以下,Big data analytics capability: BDAC)が競争優位の源泉になり得るようになった。ただし,Big dataに関する技術への投資が経営成果を高めることに貢献しないというパラドックスも多く報告されている。これまでのBig dataと組織の利用に関する研究では,BDACだけでなく,それを市場から得られる知識や,Big dataから得られた事柄を製品・サービスに落とし込む能力,などが不可欠であることまでが分かっている。しかし,このパラドックスの解消には至っておらず,組織的要因等の特定や解消メカニズムの解明が理論的に求められている。
 本研究は,この組織的要因として,組織の志向性とビジネスプロセスに注目する。これらの概念自体は新しいものではないが, Big data活用と市場獲得の理論を拡張させるために援用する。市場情報の利用や分析,戦略構築に関する先行研究では伝統的に,組織として消費者の顕在ニーズや競争に効率的に反応することを目指すのか,それとも潜在ニーズに注目し競争軸を変えるのかという,組織の市場に対する志向性に注目してきた。COVID-19のように,市場の性質が大きく変わってしまった場合,どちらの志向性を持つかによって,BDACが市場獲得に結びつ程度が変わると予想できる。また,市場の何かを理解したとしても,企業内と企業間のビジネスプロセスの統合を行わなければ,迅速かつ柔軟にその市場に参入することが難しい。つまり,BDACが高いだけでは市場獲得には結びつきにくく,ビジネスプロセス統合という条件が整って初めて,市場獲得に結びつくと予想できる。BDACに関する研究では,上記の組織の志向性やビジネスプロセスとの関係について明らかになっていない。本研究では,これについて理論モデルを構築するとともに,実証することが目的である。

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