市場研究部門 新型コロナウイルスの流行が就労者の心理・行動に及ぼす影響*

構成メンバー

★はプロジェクトリーダー

★江夏 幾多郎(経済経営研究所・准教授)
 神吉 直人(追手門学院大学経営学部・准教授)
 高尾 義明(東京都立大学大学院経営学研究科・教授)
 服部 泰宏(経営学研究科・准教授)
 麓 仁美(松山大学経営学部・准教授)
 矢寺 顕行(大阪産業大学経営学部・准教授)

研究の目的と概要

 新型コロナウイルス感染症(以下,COVID-19)が世界的に蔓延する中,就労者や彼らを雇用する組織にも,新たな対応をとり続けることが求められている。リモートワーク(テレワーク)の導入,採用施策の変更,「ジョブ型」の雇用制度の採用などは,その一例に過ぎない。こうした対応については,その緊要性や避けられなさのため,また,明確な「答え」がないため,就労者に心理面・行動面の負担や不安を強いる可能性が大きなものでもある。その反面,就労者が行う状況適応や学習は,新たな「働き方」「生き方」につながるものでもありえる。この変化を就労者や組織がどう活かすかによって,組織や社会のあり方や存在意義が大きく変わる可能性もある。
著者たちは,COVID-19流行下での就業者の経験に関し,2020年4月と2020年7月に2度の調査を行い,その実態を明らかにしつつある。このプロセスを支えるのが,(1)就労者が置かれている仕事上・生活上の状況にどのような変化が生じているのか,(2)そうした状況変化に就労者が心理面・行動面でどう対応しているのか,という問いである。
就労者の現状適応の成否には,就労者自身の特性,家族や社会の状況のみならず,所属する組織の経営管理や雇用管理が大きな影響を与える。つまり,「ベスト・プラクティス」は存在するとしても部分的で,多様な条件適応のレパートリーや,創造的で柔軟な思考・実践が就労者や彼らを雇用する組織には期待される。本研究では,就労者の現場適応,さらには将来のよりよい「働き方」「生き方」のために,彼ら自身や彼らを取り巻く存在が何をなすべきかについても,示唆を導き出すことを目指す。
この研究は,就労者が「困難を乗り越える」ために必要な意識や活動に加え,「困難と共に生き続ける」ために必要な意識や活動について考えるための基礎的な根拠を提供する。就労者の状況対応のリアリティに,先行研究の知見を踏まえた調査票設計,複数の影響関係を考慮に入れた分析モデルの構築,時間的な要素も考慮に入れた因果推論,といった科学的アプローチを通じて迫る。COVID-19にまつわる研究において,こうしたアプローチを採用した先例は,日本はおろか海外にも(現時点では)見られない。この点に,この研究の独自性と価値が存在するし,COVID-19以外にも多くのウイルス感染の流行が予想される今後の「感染症時代」においても,有益でありつづけよう。

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