農村工業化再訪:アジアの農村から

構成メンバー

★はプロジェクトリーダー

★大塚 啓二郎(社会システムイノベーションセンター・特命教授)
 島村 靖治(国際協力研究科・教授)
 村上 善道(経済経営研究所・准教授)
 會田 剛史(日本貿易振興機構アジア経済研究所開発研究センター・研究員)
 中野 優子(筑波大学人文社会系・准教授)
 橋野 知子(経済学研究科・教授)
 津坂 卓志(先端融合研究環・非常勤講師、Asian Institute of Technologyオストロムセンター・ディレクター)

研究の目的と概要

都市の過密と都市と農村の所得格差の拡大は、順調な経済成長を続けているアジアの多くの途上国に共通してみられる重大な経済・社会問題である。また現在猛威を振るっているCOVID-19のような感染症対策として、都市の過密の解消はますます重要性を増している。こうした問題を解決する一つの戦略は、農村を工業化し、非農業への就業機会を増大し、農村をより豊かで魅力的な地域に改造することである。こうした農村工業化論は、わが国の明治期以来の経済発展の過程で重大なイシューとして、特に産業組合が実践の担い手となり、1990年代や2000年代初頭にも、アジアの途上国の開発問題の重大なイシューとなった。しかしながら、農村工業化に関する研究者の関心は、徐々に希薄になりつつあるように思われる。こうした状況の中で、農村の所得の向上につながるものとして注目を浴びているのが、コメや小麦のような主食用穀物の生産から、より収益性の高い高付加価値農産物(果樹、花卉、野菜、酪農製品)の生産へのシフトである。しかしながら、所得の増大、都市化、スーパーマーケットの台頭とともに、それらの農産物への需要が増加しているのに反して、高付加価値農産物の生産は遅々として増加していないのが現状である。
 その原因として考えられるのは、農民にとって新しい作物である高付加価値農産物の生産法についての彼らの知識の不足と、加工部門の未発達である。ここでいう「加工」とは、トマトジュースや殺菌された牛乳のような農産加工も含まれるが、洗浄、燻蒸、選別、包装のような作業も含む。両者とも「農村工業」であり、高付加価値農産物の生産と販売には不可欠である。こうした農村工業は、多くの製造業と同じように地域的に集積する傾向がある。しかも、製造業の多くの産業集積と同じように、イノベーションの不足により、停滞する傾向がある。本研究の基本的仮説は、高付加価値農産物の生産を増大させ、農村工業化を実現するためには、農業、農村工業、スーパー等の小売業を包摂する新しい社会システムを構築し、イノベーションを活発化しなければならないというものである。
 この仮説を検証するために、本研究では、タイとパキスタンにおいて事例研究を行いたい。具体的には、タイのキャッサバと養鶏、パキスタンのオレンジと高給米(バスマティ)の「産地」を考えている。

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