不確実性ショックに対するエネルギー市場システムの強靭性向上プロジェクト

構成メンバー

★はプロジェクトリーダー

★中島 忠博(社会システムイノベーションセンター・特命教授)

研究の目的と概要

本プロジェクトは、感染症、国際情勢の変動、経済的ショックなど、社会に突発的に生じる不確実性が、エネルギー市場およびその周辺の社会システムにどのような影響を及ぼすのかを総合的に分析し、強靭性向上に資する知見を創出することを目的とする。エネルギー供給は社会基盤の中核であり、その不安定化は規制当局の意思決定、供給者の運営、消費者の行動に広範な影響を与える。したがって、ショックの波及構造を科学的に可視化し、社会システムとしての脆弱性を明らかにすることは、持続可能な社会の構築に不可欠である。
本研究では、複数の市場・制度・主体間の相互依存関係を捉える分析手法を用い、ショックがどのように伝播し、どの程度持続し、どの主体に影響を及ぼすのかを多面的に評価する。また、制度設計や市場構造の違いが強靭性に与える影響についても検討し、政策立案者・事業者・消費者が活用可能な知見を提供する。最終的には、社会システム全体のレジリエンス向上に向けた提言を行い、持続可能な社会の実現に貢献する。

研究の進捗状況

現在、本プロジェクトでは、感染症由来の世界経済の不確実性が日本の電力市場へどのように波及し得るのかについて、接続度分析や周波数分解といった計量モデルを用いた予備的な検証を進めています。2006〜2023年の月次データ(ID-EMV、化石燃料輸入価格、JEPXスポット価格など)を対象に、MERS・エボラ出血熱・COVID-19といったアウトブレイク期を含めて分析したところ、日本の卸電力市場は外生ショックに対してほとんど反応しない可能性が高いという傾向が見られました。特に、ショックが伝わる経路は燃料コストにほぼ限定されており、その影響も極めて弱いことが示唆されています。
こうした暫定的な結果は、容量価値(kW)や調整力価値(ΔkW)が制度的に価格発見されていないという日本市場特有の構造と整合的であり、市場全体の応答性や効率性に関して一定の仮説が成立し得ると考えています。ただし、これらはあくまで現時点での分析に基づく示唆であり、より精緻な因果構造の検討や制度的背景との接続については、今後さらに深めていく必要があります。
今後は、今回得られた知見を踏まえつつ、社会全体のレジリエンス向上に向けて、kW価値、ΔkW価値が本来備えるべき価格発見機能をどのように制度設計として整備し得るかについて、学術的検討の詳細設計に取り組む予定です。現段階では、制度的非価格化が市場の応答性を制約している可能性を示すにとどまりますが、これを理論的・実証的に接続する作業を今後進めていきます。